初めての儀式


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初めてネクタイを締めた時のことを、憶えているだろうか。

正直いうと、それがいつ頃だったのかは、はっきりと思い出せないのだけれど、まだ、兄貴と僕が一緒の部屋で寝ていて、その部屋が「子供部屋」という名前で呼ばれていた頃だから、随分昔のことだと思う。

両親の部屋には、時代がかった洋服箪笥が、確か二棹あったと思う。

今では、すっかり見かけなくなったけれど、その当時の家々には、必ずと言っていい程、洋服箪笥という自動販売機くらいの大きさの箪笥があって、その中には父親のスーツ(いや、この場合背広と言った方がしっくりくるのか)やら、母親のワンピースやセーターなどの衣類が収納されていた。

今思い出したのだけれど、この洋服箪笥というものは、実にかくれんぼの時に都合の良い物で、僕たちはよく、樟脳の匂いが立ち込める暗い箪笥の中で、息を潜めてかくれんぼをして遊んだ。

洋服箪笥の扉は、観音開きになっていて、片方の扉の内側には、大人の顔の高さ辺りに鏡が備え付いていて、鏡の下には、やはりコの字型にバーが備え付けてあり、そこにネクタイを吊り下げられる様になっていた。

父親も、そこにネクタイを何本も吊り下げていたのを憶えている。

どんなタイミングでそうなったのか、ある日、鏡と向き合う父親から1本のネクタイを手渡され、僕は初めてネクタイを結ぶことになった。

古びた洋服箪笥の扉と向き合うことが、子供心に、なんだか特別な儀式に参加しているような感じがして、遅れまいと必死になって父親の手元を追いかけていたのを憶えている。

今の僕がテーラーとして働いていて、その儀式の主役を取り扱っているということは、まさか、あの時の僕たちには想像もつかなかっただろう・・・。

そのあと随分経ってから、父親が教えてくれたのが、ウィンザーノットという結び方で、今ではあまり人気のない、クラシックなタイプのものだと知った。

父親はこのクラシックな結び方を気に入っていたのか、それとも、時代的にウィンザーノットが流行っていたのかは分からないのだけれど、リタイアするまでの間、父親の胸元には、いつもそれが輝いていた。

ネクタイは不思議だ。

世界中の男性の胸元を飾るネクタイは、多くの場合、長さは140~150センチくらいで形はほとんど変わらない。
にも関わらず、駅のキオスクで1,000円程度で売っているかと思えば、銀座の一流店では、ガラスケースに並べられ、目玉が飛び出るような金額が付いていることもある。

無用なボロ切れと言う人もいれば、スーツスタイルの要だと論じる人もいる。

個人的には、あまり深く考え過ぎないことをお勧めしたいのだが、ネクタイ一つで、「その人柄が出る」と言うのは、あながち間違いでは無いと思っている。

FREEMANS SPORTING CLUBの今シーズンのネクタイは、バラエティーに富んだ個性的な色柄でとてもいい。

最近は、クールビズの影響も手伝って、ネクタイの売り上げが良く無いと聞く。
どのメーカー、販売店も没個性的なネクタイにシフトしてきているようだ。

その中にあって、これだけ冒険したラインナップには、ネクタイ愛好家には大変ありがたい。

今年のクリスマスには、久しぶりに父親を誘ってネクタイ探しもいいかもしれない。

最期に、とっておきのネクタイ選びの方法を伝授しておきたい。
それは、『いつもきちんとネクタイをしているスタッフに選んでもらう』こと。

当たり前の様だが、ネクタイには人柄が出るのだから、きっと間違いないはずだ。

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TEXT BY KAZUMA KAKIMOTO